高専エログロ戦争




 他のクラスメートたちに与えられた武器はハリセンやアイスピックなのに、僕にだけロケットランチャーが与えられたことが桜の機嫌を損ねてしまいそうで怖かったので、渡してあげよう渡してあげようとタイミングを図っているうちに出撃のホイッスルが鳴り響いてしまい、僕らは道頓堀と日本橋の真ん中らへんに転送されてしまった。
 演習通りに砂袋を積み上げて即席のトーチカを作った。こんなものを作ったところでどうやってハリセンで戦うんだろうと不思議だったが、誰も言い出さなかったのできっとどうにかなる方法でもあるんだろうと思うことにした。

 トーチカが完成すると船太が「エンブレム書こうぜ」と言い出し、賛成派と反対派の数が丁度半々くらいでどちらにも決まりそうもないので、緊急で学級委員会を開くことになった。互いの意見を委員長がまとめ最後に挙手で多数決を取ると、しかし賛成数反対数を足してもクラスの人数より少なかったので田辺がキレた。

 「お前ら真面目にゃ」

 そこまで言ったところで立ち上がった田辺の頭が綺麗に吹き飛んだので、田辺は残りのセリフを言えなくなった。僕は少しだけ可哀想になって「真面目にやれよ」と正しいセリフを呟いてみたが「敵襲ー!」という声と暴風のような銃弾の反射音に掻き消されたので、このままじゃ田辺が浮かばれないなあと思ったが、よく考えるとエンブレムがどうのこうのぐらいでキレる田辺も田辺だと思って忘れることにした。

 トーチカから少し離れた影にしゃがみながら状況を観察してみたが、銃弾の暴風雨は止むことがなく、これじゃあ頭も上げらんないなと思った。が、皆は意に介さない様子で中腰と伏せの屈伸運動を繰り返しながら応戦していたので、そういうものなのかなとも思った。しかし、立ち上がったところで50m先の敵に向かってアイスピックやらこけしやらの超至近距離白兵戦用武器を2回3回と突き出しているだけなので、きっとふざけているんだろう。田辺の命を賭したメッセージは無駄だった。まじめにやれよ。

 トーチカにへばり付き必死の形相でジャージー牛乳を振り回している鈴本さんが、突然こちらを振り向き「そんな大きいの持ってるんやから手伝ってよ!」と言った。鈴本さんが僕のあれの大小を知っているはずないので、たぶんロケットランチャーのことだろうと思い「使い方がわからない」と僕が言うと、鈴本さんは演出たっぷりのほふく前進でこちらへやってきて、僕の左頬をビンタした。「いくじなし!」 いくじがあれば使い方が判るという方式らしい。どうやら僕はいくじなしだ。

 僕が聖書に習い右頬も差し出していると、鈴本さんは僕の右頬には何の魅力も感じないようで、彼女はロケットランチャーを船太に渡していた。どうやら鈴本さんもまたいくじなしだ。どうして僕はビンタされたのだろう。船太がロケットランチャーを手に「わかった!」と立ち上がった。船太にはいくじがあるらしい。キュイーンと何かがチャージされるような切ない音の後に飛び出した小型のロケットは、敵を通り越して、道具屋筋の看板に命中し、裏側で爆発して果てた。銃弾の嵐がパタリと止んだ静寂に「そこじゃないよぉ」と鈴本さんが嬉しそうに言う声が聞こえた。

 「よし、もう一発!」と船太が言い、しゃがみ込んでロケットランチャーをカチャカチャと愛撫した。一度は萎えたロケットランチャーが再びいきり立ったのを見るや否や、船太は立ち上がり、またキュイーンの音がした。が、その瞬間には勇敢な敵の一体がすぐそこまで走り込んできていて、ロケットが至近距離で爆発し、船太は半分になった。もう半分は、船太砲に粉砕された敵と混ざった。

 鈴本さんは半分になった船太に呆然としたが、もう半分が敵と混ざり合っているのを見るとヒステリックに叫び、バラバラの敵とバラバラの船太を無茶苦茶に踏み潰しローファの裏で磨り潰した。ぬちょりむちぇりと音を立てながら潰れていく船太の半分は、どんどん複雑に敵と混ざり合った。

 僕は、先の爆発で飛んできた血を浴び異様な赤黒さに光る敵の小銃を拾い、ついでに鈴本さんのジャージー牛乳も拾い上げた。ジャージー牛乳のパックの口を開け、小銃の銃口を突っ込んで掻き回した。中から白いのが溢れて手を汚した。

 銃口で中を掻き回しながらふらふらと歩き、まだぬちゃくちゃやってる鈴本さんのバックに立つと、パックの底を鈴本さんの背中に当てて、引き金を引いた。バブンと情けない音がして膜が破れた。パックの口から溢れる白いのに、赤いのが混じって変なピンクになった。

 地面に崩れ痙攣する鈴本さんを眺めてほっとしたので、パックの口から銃口を引き抜いて、今度は自分の口にくわえてみた。まるでジャージー牛乳と血が混じったような味がして、気持ち悪かった。