たこ焼き神の白昼夢




 昨晩よりたこ焼きパーティ勃発。夜行性の生き物が三匹でたこ焼きを百個食す。もう粉モノはいらない。

 たこ焼きに蕎麦や糸コンニャクやチョコレートを入れることを、思いついてもやってはいけない。チーズにたこを包んで丸く焼き上げる新しい料理を創作する必要もない。胸焼けがします。酒灼けもします。たこ焼きを調理しながらも、実は焼かれているのは自分の方、というレトリックでしょうか。これを書き連ねている現在、今年最大級の筋肉痛に襲われておるのは食べ物の神様が与えた試練なのでしょうか。
 そんなわけないし食べ物の神様なんて、ましてや、たこ焼きだなんて半分冗談みたいな料理に立腹なさる神様なんているわけがない。そんな神様いたとしても、きっと先日のJR事故で天に還られたことだろう。
 と、酔いどれた頭で久々の深夜テレヴィジョンを眺めやりつつそのような不謹慎なことを考えていると、とうとう我慢の限界に達したか、神様が僕にお叱りを与えるため下界に舞い降りる。

(これこれ、たこ焼きで遊んではならん)
 え? 何か言った?
(今すぐその竹串を捨て、敬意あるたこ焼き作りに励みなさい)
 なに? 私の頭の中で喋る貴方はどなた?
(たこ焼き神じゃ)
 たこ焼きの……神様?
(そうじゃ)
 ぷー!

 と言うが早いかテーブルに散乱する竹串の一本が宙に舞い上がり、僕の右手にぷしっと突き立てられた。カーペットに結わえ付けられた右手は全く現実感がなかったがこれは僕の右手であり僕の右手はこれ以外にありえないので僕は僕の右手が竹串でカーペットに結わえ付けられている光景を目にすると思わず「右手ー!」と間抜けな叫び声を上げた。すると背後に丸めてあった毛布がもぞもぞと動きだし中から黒川芽以が現れる。芽以ちゃん!

「どうしたん?」
 いや、右手。これ。
「うわ! なにこれ! 刺さってるやん!」
 うん
「なんで刺さってんの? 抜いて大丈夫? 病院行く?」
 わかんない。抜かない。行かない。
「痛い?」
 痛い
「これは? 痛い?」
 痛い

 などと言いつつも僕は芽以ちゃんが毛布の中にいる理由を必死で思い出そうとするのだけれど思い出せないっていうか芽以ちゃんが僕の右手から真っ直ぐに起立する竹串をちょんちょんと弄ぶので右手がちょっと本気で痛い。竹串侮り難し。痛みに分断される頭で考えて考えて考えても芽以ちゃんが毛布の中にいる理由が思いつかないので、僕は直接尋ねることにする。

 芽以ちゃん、なんでここにいるの?
「え? 私ここにいるよ?」
 いやそうじゃなくて、どうして僕の毛布の中にいるの?
「あー、そういえばどうしてだろう。考えたことなかったからわかんないよ」
 そっかー。じゃあ今考えてみて。
「うん。うーん。あ!」
 わかった?
「んーん、わかんない」
 そっか。
「ごめんね?」
 いいよいいよ。ああ、可愛いなあ、もう。
 っていうか芽以ちゃん、あんまり竹串いじらないでね。
「あ、ごめーん」
 あんまりいじると、気持ちよくなっちゃうから。
「うん、わかった。でもちょっとだけならいい?」
 うーん……ちょっとだけだよ?
「わーい」
 それよりさ、たこ焼き食べようよ。
「たこ焼き?」
 うん、たこ焼き。中身たこじゃないけど。
「食べるー」
 あ、ちょっとそこのボウル取って。僕、ほら、動けないから。
「はい、どうぞー」
 はい、どうもー。っていうか竹串触りすぎだから。
「だって可愛いんだもんー」
 か、可愛いの?
「うん、なんかぴくぴくしてんだよー。かあいー」
 じゃ、じゃあ結婚して!
「それは無理」

 だなんて素敵体験があろうわけもなく、たこ焼き神の願いも虚しく、僕の胃はたこ焼きらしからぬたこ焼きで満たされていくのでありました。世の中の悪者とされてしまった喫煙者は他人の部屋でもベランダへと追いやられ、星を眺め、っていうか星なんて出てないというかむしろ雨降ってたんだけど、線路脇のアパートで蛍族を満喫しておったわけです柏原市。お腹タポタポ。