トーク・アバウト・ランディ




グミ、チョコレート、パイン。
僕の地方では、グリコ、チヨコレイト、パイナツプルだった。
あの娘はチョキチョキチョキの連続攻撃で、圧倒的なスピードで歩を進める。
僕はグーしか出せない。
チ、ヨ、コ、レ、イ、ト、と大股で上り坂を進む彼女を見上げる。

「じゃんけん、」遠くで彼女が言う。
僕はグーを耳の側辺りまで振り上げ、しかし「ほい」とは振り下ろせない。
彼女が彼女のタイミングで、チョキを繰り出す。
チ ヨ コ レ イ ト

ゴールだと決めた電信柱は、もう過ぎている。
この勝負が何なのか、僕はもうよく思い出せなくなっている。

「じゃんけん、」背を向けたままで、彼女が言う。
僕はぢぃっと死んだふりをしていて動けない。
遠くで誰かの「ほい」という声が聞こえる。
彼女の振り下ろした手は見えない。
どこかから野球部の練習の声が聞こえている。

電線で区切られた空を見上げる。
一瞬で星空になり、陽が昇り、そしてまた暗くなる。
「じゃんけん、」
笑い声がする。
誰のものかは、よくわかっているけれど、わからない。

「ほい」
言いながら、グーを突き出す。
電信柱の冷たい感触は、しかしとても心地が良い。
右手でチョキを作り、左手のグーと戦わせてみる。
相打ちじゃん。
少しほくそ笑むが、また誰かの「じゃんけん、」と言う声が聞こえて、
証明写真のような表情になってしまう。

「ほい」
タイミングを無視して、グーを出してみる。
来た道を振り返り、遠く坂の向こうを見上げて、
グ リ コ
と言いながら、三歩、真横に進んでみる。

彼女とは違う周波数で細い路地に入る。
笑い声は誰のものなのかわからない。
僕はグーを真っ直ぐに突き出し、
グリコグリコグリコグリコグリコグリコ
呟きながら進んで
いつの間にか帰り道がわからなくなる。


- - - -

死にたくなくもない
生きたくなくもない
死ねなくはない
生きられないわけじゃない

頑張ろうという気がないわけじゃない
頑張ろうという気はない

殺されたくなくはない
殺したいとも思わない
殺された
生きた

生かされているとは思わない
生きていると思う
象限は違うかも知れないけれど

接頭語に「とりあえず」が付く
取り合いたいとは思わない

駅の隅っこで三角座りして
傍らに空き缶を置いて
その中にどんどん小銭が貯まっていけばいいと思う

宝蔵院の二代目胤舜と戦って死ねたらいいなと思う
思わない
思う

めくらになりたくない
つんぼになりたくない
びっこを引きたくない
動けなくなりたくない

考えたい
考えさせられたくない
感慨したい
憤慨できない

一人で生きているんだと勘違いしたい
事故で即死なら代わってあげてもいい
頭の中にモンキーレンチを突っ込んでほしい
俺は痛い痛いと言う
言う
思う
言わない
言う


- - - -

ロマンチック街道が動く歩道だったら
ちょっと台無しだけど
楽しそうだ

テンションって、上下だけだと思ってる?
左右にも動くこと
奥行きだって、この通り
それは知ってた?
そもそもテンションなんて
こんなに不確定な
ないと思えば
定義すらなくなるでしょう

スタンドを上げたら濡れたサドルにまたがる
爽快さ
腰痛防止の鯉のぼり
めでたい僕のコングラチュエーション
明日の君をトランスレーション
ウイスキーのボトルで撲殺
琥珀液が血と混じったらどうなると思う?
今晩二人で試そうか
どうやら君は僕にしか見えないみたいだ

そうだな
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セカチューより笑えて
笑っていいともより泣ける
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もちろん夢オチさ

僕は君にしか見えないみたいだから
いいだろう?
もちろん夢オチさ


- - - -

17才だったあの娘は
切なくなりたがっていた
制服から死の匂いを発散させ
厭世、達観を装いながら
思い出したように、むだ毛を手入れした

わざと雨に打たれて
濡れた前髪の奥
隠れながら
柔らかく
でもぎこちなく
笑ってみせた

不器用に世をあざける
他とは違う自分
に、ときどき、うっとり
たまにゃ、ずっぼり

サブカルチャーが好きで
自殺未遂が好きな
普通の
普通な
女の子
セブンティーンガール だった


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眠っている間だけ、時間が定義通りに正しく経過する。
そう、眠っている、
意識を失っている間だけ。

意識がないと、
全てが正しい。

眠りたい、ということは
意識をなくしてしまいたい、ということ。
僕らは生きるために眠らなきゃならないんだけれど、
そのために、短い死をインターバルとして挟む。

きっと、起きている状態こそが異常であって、
眠っている状態、
意識のない状態の方こそが、正常。

イレギュラーな生を保守するために、
申し訳程度の死をトッピング。
不安定な生を、コントロールしきれないから。
コーヒーに落としたミルクみたいに、
ゆるゆる、拡散してしまう。

たまには死なないと
生きていけないんだろう。
ああ、今日も、
おやすみなさい。


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ランディ 俺のファーストキスを
ランディ 鮮やかに奪い去ったのは
ランディ 君だったね
君だった 君だったのさ

ランディ 覚えているか
ランディ 悪ふざけのポッキーゲーム
ランディ チョコの味はほとんどしなかった
チョコの味は チョコの味だけは

ランディ 彼は男じゃないかって
ランディ 恋人は言うけれど
ランディ 俺のファーストキスを奪ったのは
確かに君だった 君だったのさ