桃尻ピンクローター




ギブミー! ギブミー! 叫ぶ彼はマジックミラーの向こう側
色黒の面接官が 彼女のお腹に手を当てた
精液の悪臭が部屋の隅に溜まる 他には何もない 悪臭だけが蓄積する

ライターが暴発して中指を失った彼女は更に美しくなった
その手の形 僕の首にピッタリ
マジックミラーを殴る蹴る 自分の形が歪んでく
僕の腸をあげるよ 君の首にピッタリ

あらゆる攻撃を酒飲んでかわす セックス メロンパン ロックンロール
モノノケ姫とエヴァンゲリオンの上映期間が被っていて
並んだポスター 白抜きの文字
生きろ と 死ねばいいのに
ポスターの前 二人の男女 幸せそうに 手を繋いで
ねぇ どっちを観ようか?


ニンフォマニアの少女 引き出し開き 楽しそうに 材料を詰め込む
生卵 アスピリン 南京錠 トイカメラ 猫の髭 従軍慰安婦のプロマイド
ざっくり掻き交ぜ 引き出しを閉じ
ほんわかぱっぱ〜 ふんわかぱっぱ〜 ド〜ラえ〜もん〜

少女は二週間後ATMの前で発狂 自らの服を引き裂き
身体を一通り掻き毟ると 耳 瞼 下唇 大陰口 を立て続けに引き千切り 咀嚼し
順番待ちの人々に 口移しで分け与えた
吐き出した男は 喉元を噛み切っておいた

体中から血を滴り落とす少女 未だ飽き足らず
先程の男が左眼 伸ばした爪先でくるりと器用に取り出すと
己のそれと交換し 眼底の中 くるくる回して楽しんだ

夕暮れ迫る街中に飛び出した少女 国道へ走り幅跳び
黒猫トラックと衝突 身体は百八のパーツに分かれ
それが少女の最後となった

その一部始終を納めたビデオ インターネットで大流行
 忘れ去られるまでの二週間 少女の中身の その色は
数十万の瞳に晒され 白目の裏側に焼き付いた
美しい少女の姿 白目の裏側に焼き付いた


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起床。時刻は午前一時半。
ああ、いつのまに眠り込んだのだろうと、やけに湿った体を起こす。
目が痛い。髪の毛が気持ち悪い。
風呂に入れてくれ。俺も風呂に入れてくれ。
などと思いつつ、開きたるは冷蔵庫、青春の味、三ツ矢サイダァ。

というのは全くの嘘であり、サイダァで青春なんて思い出さない。
セールで買った、一本百五円の缶酎ハイが近いだろうか。
流しに置いてあったウイスキグラスに注ぎ、飲む。
炭酸とは、このように耳に触るのか。
飲む。
台所にぺたりと座り込む。
飲む。
静かな夜だ。
鬱陶しい。

シュワワワ シャワシュワワ シャワワワワワ

「ほら、食べなよ。もっと食べなよ。君が欲しいって言ったんだよ? 食べなよ。食べろよ。ほらほらほらほらほらほらほらほら。ねぇ食べてる? ちゃんと食べてる? 食べなよ。もっと。もっと。もっと」
と言いながら、頭の部分は己が手で汚く引きちぎられ、
辺りには粒あんが散乱し、もっと、もっとと呟きながら首の部分にまで手を突っ込み、
中身を取り出し続けるアンパンマンを夢想していると、ゲップと屁が同時に出た。
いつもとは違う視点の台所、少し泣きたいような心地になるが、泣かない。

静かな夜はいつだって誰かを泣かせている。
僕が泣いたら、君が泣けなくなるから、泣かない。
耳障りなサイダァが、なくならない。


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猟奇的な彼女の脇毛を抜く役になりたい。
猟奇的な彼女は、脇毛が気になるたびに僕の元へ来るのだ。
そして「脇毛を抜いてください」と懇願するのだ。
猟奇的な彼女は、猟奇的に脇毛抜きを強要するとどういう目に遭うのか知っている。
だから僕は、ちょっと苦笑いなんか浮かべながら、猟奇的な彼女の脇毛を抜く。

猟奇的な彼女は、いつもの猟奇的っぷりで僕に「笑うな」と言う。
僕は「ごめんごめん」と言う。
そして、できるだけ痛くないように、脇毛を抜く。
ピンセットで脇毛のできるだけ根本を、肉を摘まないよう注意しながら、
猟奇的な彼女が痛みを覚えることがないよう、そっと、脇毛を抜くのだ。


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「今どこにいるの?」
「ひみつ」
「何をしているの?」
「ひみつ」
「何がしたいの?」
「ひみつ」
「何を考えているの?」
「……ひみつ」


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何を考えているの?
って
一番、訊かれたい質問だった

その答えを積み重ねたものが
自分を表すと思っていた
ずっと
ずっと
それだけ訊かれたかったんだよ

書いちゃったね
もう
一番じゃないね


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いくらか時間が経ちまして
俺は 明るくなったよ

その髪の色が
昨日 黒くなったよ

泣かなかったよ
何故って そりゃあ
そこまで悲しくなかったからでしょうに


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なんのためのアルコールか
ということを 忘れない
もちろん酔うため

では なんのために酔う
なんのために苦虫を噛み潰してまで生きてみせるのか

「なんとなく」
という動機は
理由として耐え得るだけの力を持っている
「なんとなく」 だなんて言葉 なんとなく貧弱な気がするだけでしょう?
気持ちに名前を与えないと やってられない?

感情ベクトルの 一番大きな成分に
名前を与えて 記号化 単純化
判りやすいね 安心した?
記号化の目的は 判りやすさと 覚えやすさ

貴方が名前を付けた感情 呟いてみてよ
それだけしか感じなかったの?
そんなにわかりやすい 計算しやすい
角度って0°と30°と45°と60°と90°だけなの?

言葉というものの 表現率の低さ 愕然とします

嬉しくて痛い 怒っているけど歯がゆい 肘から先だけ切ない
色ってのは 無限にあるはずなのに
反射する光の波長 その大小を区切って
ここから赤 黄 緑と 定義してしまっているに過ぎなくて
さらに 明度や彩度といった軸も御座います
感情もそれと同じようなことが言えるでしょう

僕ら もう そんな定義では満足できない
色相環には載っていない色
そこいらを見渡すだけで 在りすぎて
でも大っぴらな規定では256色しか使えなかったりするんだよ
感情はそれ以下だよ

色相環には載っていない感情 名前を与えられなかった感情
そういったものの再現を目指したものが
前衛芸術と呼ばれるものなんだと
一人 合点してました

ああ だから あんなにもわけわからんのやね
でも たまに 気持ちいいよね

ちょっと わかりはじめて
わかったような気になりはじめて
俺は少し 嫌な奴になってるね


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「嬉しい」を下地に吹きかけて
「切なさ」をランダムに ストライプ状にトッピング
「かすれ」「ぼやけ」のエフェクトを適用して
新規レイヤーに「ゆらゆら」「もやもや」「ふわふわ」を薄く吹きかけ
透明度84%で下地に重ねる

二つの画像を同時に表示したなら
たっぷり水を含ませた水彩画用ペンで全体をにじませ なじませる
スパゲティ配線をスキャナで取り込んで
右半分にだけ貼り付ける
合わせ目を消すことも忘れずに
覗き穴みたいなマスクを形成して 穴が移動するようプログラム
けして全体は見えず 覗き見えるは穴からの断片的な情報

さあ 印刷しましょう
プリンタは古い方がいいですね
わら半紙に印刷できたなら
それをゆっくり時間をかけて燃やして
最後に出た煙をビニール袋に閉じこめます

はい 感情のできあがり
なんだか少し悲しいね

でも それは もう 今の感情じゃないね
少し 救われないね