桃尻娘の逆襲




「ね、触ってもいい?」
「だめ」

「触らせてよー」
「あかんて」


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目ン玉に精密ドライバを差し込まれた
くりくりと回すと俺が緩んだ

それがあんまり気持ちよかったんで
お返しに君の頬へ手を伸ばすと
いやいやして避けられた

ふいにおまえの瞼を噛み切ってしまいたくなる衝動に駆られた

助けてくれよアルコール
外はこんなにも寒い

助けてくれよガスト
モップに吸い込まれたのは
ゲロとサラダと
あとなんだっけ


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耳か目か口か鼻か
肘まで突っ込みたくなるんだよ
それでやっとおまえに届く
それでやっとおまえに触れる

気が触れそうになるんだよ
星座からすっごい鋭いのがヒュンッと出て
後頭部を貫かれちまう

こんな夜に
助けはない
こんな夜には
助けなんて来ない

「ティッシュペーパーを燃やしたら
 予想以上の燃えっぷりで
 すっごい慌てちゃったヨ」
って
話したくて燃やすけど
話せたことなんて
一度も


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スイッチ切っちゃいたいよ
知ってた?
僕の背骨にスイッチが隠してあるって
でも自分じゃ届かないの
知ってた?

ちょっと押すだけでいいからさ
誰にも言わないから
たまたまぶつかったふうを装ったっていい

痙攣したって
離しちゃ駄目だよ


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匂いフェチだけはやめときな
似たような匂いっていうのは意外と多くて
なんでもないような瞬間に鼻孔の奥に僅かな粒子を感じ
いきなり地下56万メートルまで落ち込むなんてこと
とても惨めだから
やめときな


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どんなに素晴らしい愛の歌も
おまえが歌うと
悪意で練り上げた鈍器を心臓の裏側に突っ込まれたような気分になるよ

最後におまえの歌を気分良く聴けたのはいつだったか
よく思い出せない

歌の印象は違うのに
歌声だけが変わらない
そのことが余計に
俺の心臓を下へ下へと引っ張った


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こんな爽やかに晴れた朝には
銃口を咥えたくなる


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悲しいことが、あっただろ? 嬉しいこともあっただろ。
相変わらず僕らは生きていけちゃう。
追い詰められ尽くすわけでもない。突き抜けちゃうわけでもない。
とらとらと漂いながら、こくこくとコーヒーを飲んで、
もふもふとジャムパンを食べ、にちにちと携帯でメールを打ち、
シャンシャン鳴るイヤホンを突っ込んで、待ち合わせに向けて急いだりもする。

僕ら、殺されなかったよ。
それがイコール生きろということになるだなんて思うつもりはない。

死ぬほど辛いか。そうでもない。
なんとしてでも生き抜きたいと言えるほどの希望があるか。そうでもない。
何ができるのか。わかんない。
何をやってみるのか。わかんない。

怪我したら血が出たりするけど、それが生きる意志だなんてこじつけは胡散臭い。
息を止めたら苦しくなった。顔を上げた。
首を絞めたら急に暴れた。離した。

狂ったふりは少し楽しかった。

俺は俺がものすごいくだらないことを知っているが
俺は俺だからしょうがないことも知っている。
キッズ・リターンの「まだ始まってもいねぇよ」が絶望的なセリフに聞こえる。

あんたの子供を産んでみたい。