ダ ダ レ ッ ド



 小学生の頃
 俺は何か 悪さをして
 担任の教師に叱られていた
 俺には俺の言い分があったが
 本当に 悪いことをしたと思っていた
 涙としゃっくりが止まらなかった
 俯く俺に 教師が言った

 「人の話を聴くときは
  ちゃんと相手の目を見なさい」

 泣き止まぬ俺に 呆れたかのように
 教師は説教を続け
 なんとか堪えて 目を上げた俺に
 気付いた教師は
 「なんだその目は」

 教師という生き物が
 自分らにとって都合のいい理屈や
 常識や道徳といった概念を盾に
 教育 などという幻想に取り付かれた
 得体の知れないものだと知った

 教師はもう 人間には見えなかった
 人間であり得るはずがなかった

 殺意を覚えた しかし
 子供が大人に逆らったところで 無駄だということは
 幼い頃から 身に染みて判っていた


 「ごめんなさい」
 と言った
 何度も言った

 教師は これ見よがしに
 「どうして謝っているのか判っているか」
 「善悪の区別くらい付くだろう」
 「とにかく理由を話しなさい」
 と 俺を攻め立てた

 もう 崩れた
 どうでもよかった
 早くここから離れたかった
 この生き物の近くに居たくなかった
 見られたくなかった 同じ空気を吸いたくなかった

 こう言えば満足なんだろうという答えを推測し
 つらつらと語ってみせていた
 昼休みの終わりを告げる鐘が鳴ったが
 教師はそれでも俺を解放せず
 言い訳の問題点を晒し上げ
 その解決策を提示し
 同意を強要した

 涙ながらに「はい」と答える俺を
 傍観している自分に気が付いていた
 偽物だらけの身体の中で
 止まらぬしゃっくりだけが 本物のような気がした


 やっと解放された俺は
 授業の始まっている教室に 戻らなくてはならなかった
 涙と鼻水と
 それらを拭った跡で ぐしゃぐしゃだった

 戻りたくはなかった
 ただ 教室に戻らないと
 どうなるかは容易に想像できた
 教室のドアを開けると 一心に視線を集めたが
 別に 普通だった
 なにより とても疲れていた


 授業終了後
 終わりの会 という呪われた儀式で
 教師は俺のことを話題にした
 こんなことがあったが
 先生は厳しく注意しました
 みんな こんなことはしないように
 わかりましたか

 結局 教師の口から個人名が語られることはなかったが
 もう何も 思わなかった
 ただ俺は じっと
 教師の目を見続けた