シ リ ー ズ ア ラ イ グ マ



アライグマ「つまり、僕がアライグマになった意義ってのは、」

アライグマ、ストップモーション。
照明可能な限り薄暗く。
男が歩み出る。それをライトが追う。

男「さあ、季節に環境に時空すらも飛び越えて、バラバラな感じで進んできたこのお話も、いよいよクライマックスという一点に向け収束しようとしています」

以後アライグマ、歩き回る男の背後でセリフをジェスチャーで表現。

男「いやー私も袖のほうで一観客として見ていたんですが、それにしても驚いた!特にアライグマと宇宙魔王との最後の決闘のシーン!血沸き肉踊るとはまさにあのことでしたね。彼女から貰い受けたトムヤムクンの固形スープがあんな形で伏線を張ってくると誰が予想し得たでしょう。そして明かされていく彼の過去がまた!前世はさかのぼり過ぎだろうと思いましたが、今考えると前世で明かされた北の国からのモノマネが、闇の剣に心奪われそうになった彼に喝を入れたんでしょうね。そして○○県中から集まってくる1024人の仲間たち!全員名前言えますか?え、私?当然でしょう。私は、ほら、あの、チェーンソー使いが好きでしたね。爆音を立てながら並み居る他学科生徒をバッサバッさと、、、」

アライグマ、切り捨てるジェスチャーをしながら調子に乗って男の前へ。
男と目が合い、しばらく見詰め合った後、舌打ちをしながら元の位置に戻り、ストップモーションのポーズ。
男が喋り始めると再びジェスチャー。

男「、、、ゴホン。(男とアライグマ、動きを合わせてオーバーアクションに)彼がアライグマになった意義とは?!そして同時に進行する高専戦争の行方は?其処此処で言の葉に袖をちらつかせる『彼女』とは?ええ、気持ちはお察しします、でも焦ることはありませんよ。お話には、終わりがある。いつしか必ず終わりはやってきます。まるで山の天気のように、躁と鬱とが切り替わる瞬間のように唐突に。あるいは愛するものとの別れのように、タンスに小指を打ち付ける刹那のように、、、って動くなぁ!」

アライグマ、男が振り返るまでの瞬間にストップモーションのポーズに。
男、アライグマを見つめた後、姿勢を正す。

男「さあ、また話が長くなってしまいましたね。はいはいもう邪魔者は退散しますよ。僕が退場したら、アライグマのストップモーションが解けて、彼はあの言葉の続きを語り出すでしょう。その後も、数々の物語がつむぎ出されるでしょう。SF、時代物、恋愛、極道人情、ミステリー、数々の物語が。そりゃ不思議ですよ、人間がアライグマになっちゃうくらいですからね。とんでもなく理不尽で、ストーリーは飛躍っしっぱなし。第三者の見えざる力を予想してしまうくらい強引な、のっぴきならない大事件。そのうえ不毛ときたもんだ。もうほんと、どうしようもないんです。どうにもならない。事実が物語として語られるのは、決まって物事が過ぎ去った後なんですから。聞いた後から動いたんじゃ遅い。遅すぎる。よく分かったフリが大好きな自称知識人サンはこんな言い方をします。『事件はいつもの日常の中に突然やって来る』なんてね。反吐が出る。事件も日常もないんですよ。あえて言葉にするなら『普通の日』。彼は、産まれて、育って、そんでなんだかアライグマになったんだ。それでいい。それ以外にない。でも私達はそんな普通の日々に意味を付けまくって生きてる。それもまた事実。自分の過去を未来を境遇を、なんとか脚色しまくってドラマチックに仕立て上げて、それに酔いながら自分に酔いながら、そう、人間は酔っていないと生きていけないんだ。自分に酔えなきゃ女に酔えばいい。女に酔えなきゃ酒に酔えばいい。酒にも酔えないなら、、、おっと、どうも話が反れますね。つまり、こういうことです。彼はある日アライグマになった。彼にはのっぴきならない過去がある。それが、それは、」

男、アライグマ「あんたの人生とどう違う?」

瞬時に暗転。
男、アライグマ、「動くなって言ったろ!」などと言い争いをしながら暗闇の中を退場。