シ リ ー ズ ア ラ イ グ マ



 自慢じゃないけれど、初体験は15の夏だった。いや、自慢になるのか。この話を聞いた友人は皆口を揃えて「いーなー」と言った。まあ、友人はみんな、後からそれを知った人たちばかりでもちろん当事者でもなけりゃ傍観者ですらない。聞き耳立ててる野次馬だ。野次馬は総じて「いーなー」か、「ふーん」か、「死ね!」しか言わないんだよ。いや、本当に。でもまあみんなそうだよね。修飾語とかがいっぱい付いてるだけでさ。

 中三の夏は受験勉強真っ只中ってイメージがあるけれど、実際にはそんな中学三年生は露ほども居ない。開放感と少しの焦燥の中遊びまくってたね。でも、中三の「遊びまくってた」なんてたかが知れていて、やれ悪友の家で煙草を覚えただの、やれ20キロも離れたオモチャ屋に自転車で汗だくになりながらプラモデルを買いに行っただの、やれロケット花火の中身をレンガの上に穿り出してお灸の形に整えて火柱を上げてみただの、かなり狭い世界でかなり無茶をしまくっていた。電車に乗ることもできたけれど、移動するのにお金が掛かるなんて効率の悪い方法をどこの中三が採用するって?幸か不幸か、僕の町には自転車で移動できる距離にたいていのものがあった。あの狭い限られた世界の外側が第三次世界大戦で燃え尽きたって、僕らは相変わらずあの狭い世界で新しい興奮を探して自転車を飛ばしてたろうと思う。そういう時代が、確かにあった。

 初体験のことはよく覚えていない。と、自分に言い聞かせている。たまに思い出して一人Hもするけどね。それだけ。あの人は7つ年上で、大学生らしかった。何階生かは知らない。正直なところ、ほんとよく覚えちゃいないんだよ。セミロングの髪がくすぐったかったことと、すごくいい匂いがしたことと、驚くほど気持ちよかったことと、あとなにかな、ピアス穴が三つ開いていた。右耳に二つ、左に一つ。僕なんか名前も聞いたことのないようなビジュアル系のバンドが好きって言ってたっけ。ほら、よくあるじゃん、柩とか、レクイエムとか、そんな感じの。そのときまでビジュアル系好きの女=怖いってイメージがあったんだけど、全然普通で髪なんか真っ黒で逆に面食らったのを覚えている。そういう下らないことはよく覚えてるんだよ。でも、肝心なところは靄が掛かって分からない。顔さえ思い出せないんだ。まあ、そんなに詳しく話したくもないしね。出会って、駅のトイレでして、そんでバイバイ。あんまりこのへんは聞いて欲しくないな。それっきりさ。中三なんだよ、携帯なんか持っちゃいない。

 いくら日本男児といってもこればっかりはやっぱりさすがに、こっちとしちゃ軽い出来事じゃなかったしね、探しちゃうもんなんだよ。交差点、夢の中、向かいのホーム、路地裏の窓、明け方の街、急行待ちの踏み切りあたり、旅先の店、新聞の隅。見つかるわけないんだよね。ただ、そうすることが自然で、当然の義務みたいに感じてた。恋ではなかった。そして今、