シ リ ー ズ ア ラ イ グ マ



 「猫がね、子供の悪戯で両ヒゲを切られちゃうの。猫ってヒゲがなくなると右も左もわかんなくなっちゃうのね。そしてその猫は愛する元へ辿り着けず、鳴くことも泣くこともせず、ただただ立ち尽くすの。」

 僕がその話を聞いたのは、中学二年生の時分だった。聞かされた当時は特に何の感慨もなかったけれど、その話の筋だけは深く頭の奥に残り、必要に応じて顔を覗かせた。泣きたいのに泣けないときってあるじゃないか。僕はできるだけその猫のことをリアルに想像する。脳内に悲劇を描く。たまに子猫も登場させたりなんかしてね。まあ上手くいった試しなんかないんだけれども。

 で、結果的に今僕はクエなんだけど、なんとなくそれを試してみたくなったんだよね。泣きたいことなんて何も無いけどさ。クエが何を思って泣くのかっていう考えの結果なんだよ。もしこれが成功したなら、僕はおそらく世界で初めて猫を思って泣いたクエになれるってわけさ。表彰もん、ギネスはまず堅いね。もしかしたら以前にそういう物好きなクエも居たのかも知れないけれど、まあそんなことはどうだっていいんだよ。たぶん世界初だとは思うけどね。猫を知ってるクエもそういないだろうから。

 でもそこで問題が突起した。クエに涙腺があるのかってことさ。そこでまず検索してみた。Googleで。僕、これ、ずっとゴーグルって読んでたんだ。恥ずかしい話だよね。今はもうムキになってわざとゴーグルって呼ぶことにしてる。その度に訂正されるんだけど、癖になっちゃってるから仕方ないんだ。むしろこれは実はゴーグルなんじゃないかって気すらしてる。だって普通に読めばゴーグルだろう?ゴ・オ・グ・ルってさ。その結果がこいつさ。役に立たないもんだね。念のため「魚の涙腺」でもググッてみたけど結果は同じだった。「魚 涙腺」だとヒットが出鱈目過ぎて探すの面倒なんだよ。これじゃ泣けないから涙が出ないのか、涙腺が無いから涙が出ないのか分からないじゃないか。困ったもんだ、涙もちょちょ切れるよ。