シ リ ー ズ ア ラ イ グ マ


 出撃要請のサイレンが鳴り響いて三時間、教室にぽつねんと残された僕は一通りの暇つぶしを一通りやってしまい、しょうがないので散歩にでかけることにした。まずは司令室。

 「ういーっす」
 「あ? 何してんねんなお前。戦闘中やで」
 「いや、僕無職なんで」
 「ああ、そっか」
 「戦闘ってどこでやってはるんですか?」
 「今? 体育館付近でM科と交戦中やけど」
 「ありがとござっしたー」
 散歩終了。体育館といえば校内でも端の方に位置しているので、まあ大丈夫だろうと腹をくくって、いや、別に腹なんてくくってないんだけれど、とにかく僕はいつものように喫煙所に向かうことにした。

 いつものように人通りのない廊下をだらだらと歩く。階段を上がるとすぐ左手にある喫煙所は、いつだったか蛍光灯が切れて、まあ換える人なんて誰もいないし不便でもないのでそのままになっている。て、あれ? 電気付いてるじゃん。誰かいるんかいな。

 ガラガラガラガ

 と扉を開けた僕の目に飛び込んできたのは、サバイバルゲームみたいな格好で喫煙所の窓辺に座り込んでスナイパーライフルを構える男。の、ゴーグルと目が合った。なんやのあんた。けったいな格好でなにしてますのん。思うが早いか、男は目にも映らぬ動作で腰のあたりからハンドガンを取り出すと僕の方に向けてパン!

 パン?

 「当たるがな!」
なんて間の抜けた抗議をしながらも、僕はしっかりと本当に身体に穴が空いていないか確かめる。死んでるのに死んでないなんて、そんなのちょっと困る。幸いにも僕の身体は元気100%であるようなんだけれど、背中を確かめようとして振り返ったとき、顔から僅か数センチ右にずれた壁に銃痕を発見してちょっと焦る。
 「わざと外した。誰だ」
 サバゲー男が抑揚のない声で問う。なによこの人。
 「無職です!」
 テンパってる僕はテンパった答えしか返せない。ああ、今、顔とかむちゃくちゃ赤いんだろうなぁ、恥ずかしいなぁ、だなんて意味のわかんないことも考えちゃう。
 「ここでなにをしている」
 こっちのセリフだよ。だなんてこと言えるわけなくて、というか、サバゲー男がなにをしているのなんてことは明らかで、喫煙所の窓は体育館方面を向いていて、そこではC科とM科が戦闘中で、彼はスナイパーライフルを持っているのだ。なんやねんな、もう。
 「煙草を吸いにきました」
 「ああ?……そうか。じゃあ出て行け」
 「おじゃましましたー」
 喫煙所内では人を殺せない。

 サバゲー姿のスナイパー、というのはこの高専戦争内でも有名な人物らしく、なんでも彼の姿を見て生きている奴はいない、と伝説化しているらしい。ということを後日、司令室の雑談で耳にした。彼は戦前のあだ名から「スナイパー・卍」と呼ばれているらしい。卍? なにそれ? ナチ公?

 喫煙所を追い出された僕は、仕方なく三階に位置する喫煙所の窓の下で、ぼんやりと煙を薫らせた。ああ、スモーキンクリーン。上から時折聞こえるパスパスというサイレンサー付き発射音も、一度鳴る度に一人の命が失われていると考えればなんだか感慨深い。
 足下の吸い殻を踏み潰して、小心者の僕からせめてもの仕返しに、喫煙所の窓に向かって手榴弾を投げ込んで、それから気付いた。喫煙所使えなくなるじゃん。

 ドーン

 そんなことがあってからも、やっぱりスナイパー・卍の噂は衰えるところを知らなかった。なんでも1024発の銃弾を食らっても生き延びただなんて噂があるくらいだから、手榴弾くらい蚊に刺されたようなもんで、結構元気にパスパスやってんのかも。校長室からパスパス。女子トイレからパスパス。ああ、喫煙所破壊損。