シ リ ー ズ ア ラ イ グ マ




 「あー同棲したいー暮らしたいー」という僕のセリフは、偶然にも一瞬だけ無音となった満員電車の空間に見事に吸い込まれ、その結果乗客の視線のほとんどが僕の方へ注がれるという耐えがたい事態になってしまったので、僕は気まずさにやもを得ず遅刻を覚悟でたまたま止まった駅で降車した。したらその駅がまた30分に1本しか止まらないような半無人駅で、つまりさっき僕が降りた電車が30分のうちの1本であり、僕はこの待合室で、たいして効きもしないくせにうるさいクーラーと30分の時間を宙を眺めて過ごさなくてはならなかった。同棲のバカヤロウ。

 あー同棲したい。というか、半同棲したい。ものすごく自然な流れで半同棲。やもを得ず半同棲。あーしゃあないなぁ、泊まってきや。みたいな。あれ?今日は帰るん?みたいな。あーいいなぁ。と、口半開きで思い浮かべる僕の願望も、実は本気ではないのだ。願望とは言えども、これはいつか、4,5年後くらいに実現するんだろう。そう思いたい。ならばこれはこれ、一つのリビドーとしてそのときまで取っておこう。今は実行できないし、するときじゃない。僕が今するべきことは、そんなことじゃないんだろう。とか言いながら、やっぱり今すぐにでもしたいんだけれど。

 順序、というか、その時々で、その時しかできないことを選んでやっていきたいんだ、僕は。たとえそれが損なことであったとしてもね。だから今は、すっごいぐっちょぐちょのドロドロでもそれでいいんじゃないかと思う。グミチョコパインだ。無茶苦茶な言いがかりや自己中な嫉妬で疲れきっちゃうような、そういうのでもいいんだよ、今は。そんなのばっかりってのは頂けないけどさ。良い恋愛しろとか言うけど、そいつは助言ではなく落とし穴だろう?良くない恋愛をやってやれ。ストレスで毎朝嘔吐するくらいの。女性恐怖症になるくらいの。むちゃくちゃに落ち込んだら、底辺から、また始めたらいい。

 大人の恋愛ってのは、さぞかし気持ちがいいんでしょうね。さぞかし格好良いんでしょうね。優越感ですか。良い気分ですか。はいはいてめぇらクソ食らえ。マジで。そんなもんさ、大人になってからやりゃいいよ。子供の恋愛逃したあんたらに、愛を語る資格はない。そんな資格は俺にもないだろうが。自己満足ですか。知ってる。自己満足以外に何があるっていうんだ!

 知ってるさ。こんなのただの独り善がりだ。小学生が、同じクラスのモテモテ君に向かって「おらおら!こっちはこんなに楽しいぜ!でもお前は向こう側なんだ!うわっはー!」なんて言いながら、馬鹿な仲間内で花火ぶつけ合ったり、並んで立ちションしたり、駄菓子屋で万引きしてみたり、意味もなく走ったり、滅茶苦茶やってるような。実は「んなもん俺らだってモテたいわボケ!」って思ってる。でも無理なんだから、それはしょーがないし、むしろ完結しているそこには問題はない。だったらせめて、むちゃくちゃに楽しい俺らを見せ付けてやろうと思った。ふいに浮かぶ「虚しい」っていう感情も押し殺して、ただ純粋に本能から楽しんでやろうと思った。もしかしたらモテモテ君がそんな俺らを見て、羨ましいって思ってくれるかも知れないだろう?そのくらいの救いがあってもいいんじゃねーか?そうさ僕らは勝ち組み。そう思わせてくれないか。頼むよ。

 モテモテ君の取り巻きであり、僕らの憧れでもあるS子ちゃんは、またアホなことばっかりやってる僕らを見て一言。「きっしょーい」。それを聞いた僕ら、馬鹿みたいに落ち込んで。憂さ晴らしだと騒いでみても、自分が世界から膜一枚隔てた側に居るような気がして。きっと僕が変わったのは、あのとき僕の中の誰か、その一部が自殺したからなんだと思うよ。でも、だからってS子ちゃんがそのことを気に病む必要はありはしないのだ。だって、きっしょいもんな僕ら。しょーがない。さよならS子ちゃんありがとう!さあ一発かましてみるかー、と意気込んで、怪我をする。泣いてなんかいないやい!目にゴミが入ったんだい!


 そうさ僕らは勝ち組み。
 そう思わせてくれないか。



 頼むよ。